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東京地方裁判所 平成9年(ワ)6030号 判決

東京都千代田区六番町六

原告

株式会社スクリプト

右代表者代表取締役

岡部一夫

右訴訟代理人弁護士

松本純

東京都中野区中野三丁目四九番一号

被告

株式会社四谷大塚

右代表者代表取締役

鈴木靖夫

右訴訟代理人弁護士

柏木俊彦

右訴訟復代理人弁護士

湯浅正彦

主文

一  被告は、別紙第二目録記載の広告のうち、別紙aないしdの青枠で囲まれた部分を掲載してはならない。

二  被告は原告に対し、金二〇万円及びこれに対する平成九年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、別紙第二目録記載の広告を掲載し、展示してはならない。

二  被告は原告に対し、金一二〇万円及びこれに対する平成九年四月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、朝日新聞及び読売新聞の各東京本社版朝刊社会面広告欄に、二段八分の一の紙面をもって、別紙記載の謝罪広告を各一回掲載せよ。

第二  事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、広告制作業等を営む会社であり、被告は、受験指導等の事業を営む会社である。

2  原告は、平成七年一一月ころ、広告代理店の株式会社明通(以下「明通」という。)を介し、被告から被告の営む小学校一、二、三年生のための通信教育システム「リトルくらぶ」の新聞、雑誌、その他の広告制作を代金一二〇万円で請け負う旨の契約(以下「本件広告契約」という。)を締結し、平成八年一月ころ、これを完成して被告に納品した。原告が制作して被告に納品した「リトルくらぶ」の広告は次のものである。

(一) 新聞

〈1〉 全五段用(別紙第一目録記載Aのもの、但し実物の約八七パーセント縮小)

〈2〉 タブロイド用(別紙第一目録記載Bのもの)

〈3〉 半二段用(別紙第一目録記載Cのもの)

(二) 雑誌

〈1〉 B五版用(別紙第一目録記載Dのもの)

〈2〉 女性自身用(別紙第一目録記載Eのもの)

〈3〉 週刊文春用(別紙第一目録記載Fのもの)

(三) ステッカー二種(別紙第一目録記載G、Hのもの)

(四) パンフレット表紙(表裏)(別紙第一目録記載Iのもの、但し実物の約八七パーセント縮小)

(五) 申込用パンフレット(表裏)(別紙第一目録記載Jのもの)

(六) 週報等社内印刷物向けロゴマークの清刷り

4  被告は、平成八年六月ころから、別紙第二目録記載aないしdの広告(以下「被告広告a」などといい、これらを合わせて「被告広告」という。)を、被告広告aについては新聞の広告として、被告広告bについては雑誌の広告として、被告広告cについてはポスターとして、被告広告dについてはステッカーとしてそれぞれ使用していた。

二  本件は、原告が被告に対し、「被告は、原告の著作物である別紙第一目録記載Dの広告(以下「本件広告」という。)を原告の許諾なく改変して被告広告に使用しているから、本件広告についての複製権及び同一性保持権を侵害する」と主張して、複製権に基づく被告広告の掲載及び展示の差止め、複製権侵害の不法行為に基づく損害賠償及び著作者人格権に基づく謝罪広告の掲載を求める事案である。

三  争点

1  本件広告の著作物性の有無

2  被告広告は本件広告の複製といえるかどうか。

3  被告は、本件広告の著作権の譲渡又はその利用許諾を受けたかどうか。

4  損害の額

第三  争点に関する当事者の主張

一  争点1(著作物性の有無)について

1  原告の主張

本件広告は、〈1〉「おうちで育てる「知能」の芽。」というキャッチフレーズ、〈2〉大小の円により親子の顔を表したキャラクター、〈3〉「親と子の知能教育システム」という説明文、〈4〉「リトルくらぶ」という商品名を中央部に膨らみを持たせた横長の楕円形状の曲線で囲み、その右下に1、2、3年生と記載し、中央下に小さな円を配した図案、〈5〉「新開発」の文字を点線で描かれた一部突起のある円で囲んだ図案の五つの構成要素(以下「構成要素〈1〉」などという。)からなり、余白部に商品説明や申込方法等を記載したものであり、広告全体が一つのまとまりのある表現物として、著作物性を有する。

本件広告においては、右五つの構成要素により、「新しく開発された『リトルくらぶ』という教育商品が、親と子が家庭で一緒に楽しく学び、子の知能の発達に寄与するものである。」というメッセージが表現されており、かつ、「楽しさ」、「親子の愛情」などの感情も表現されている。

2  被告の主張

(一) 構成要素〈1〉、〈3〉ないし〈5〉は、いずれも創作的な表現とは認められない。また、構成要素〈2〉は、一般的に「スマイルマーク」として使用されているマークに多少の修正を施したものに過ぎず、仮にスマイルマークに著作物性があるとしても、その制作者が著作権者である。

したがって、構成要素〈1〉ないし〈5〉を構成要素とする本件広告は著作物性を欠く。

(二) 本件広告は、「リトルくらぶ」という商標を付した被告の新商品(サービス)の広告であるから、広告内に「リトルくらぶ」という商標が記載されることが不可欠である。また、消費者に商品内容を知ってもらうために、その商品内容を端的に示す説明文が必要不可欠であり、さらに、その商品の内容・品質に対する消費者からの信頼を確保するためにも、発売元である被告の会社名の表示も必要不可欠である。

このように、本件広告は、商標、説明文、会社名を必要不可欠のものとして構成されているのであって、客観的・外形的に見て、美の表現において産業上あるいは実用上の強い制約を受けており、いわゆる応用美術に属する。そして、応用美術は客観的な美的鑑賞に耐えうるもののみが著作物として保護されるところ、本件広告は、構成要素〈1〉ないし〈5〉をありふれた形に配置しているに過ぎず、特段審美的感情(美感)に呼び掛けるものではないから、著作物性がない。

二  争点2(複製といえるかどうか)について

1  原告の主張

本件広告は、構成要素〈1〉ないし〈5〉を主たる構成要素とし、被告広告も同様である。本件広告と被告広告とを対比した場合、主たる構成要素の大きさ、配置には相当異なる点があるが、主たる構成要素そのものはほとんど同一の状態で利用しており、そこに表現された感情、思想も同一であるから、被告広告は、本件広告を複製したものである。

2  被告の主張

仮に本件広告に著作物性が認められるとしても、本件広告の各構成要素には著作物性が認められないから、本件広告は一つの纏まりあるグラフィックな表現物として著作物性が認められるに過ぎない。

本件広告は、構成要素〈1〉、〈2〉を上下に平行に配置して一組とした纏まりと、構成要素〈3〉ないし〈5〉を一組とする纏まりがあり、それを上下に組み合わせて構成されているが、被告広告は、「おうちで育てる『知能』の芽」というキャッチフレーズを最上部にかつ略四分の一円周上に配置するとともに、最下部に曲線によって囲まれ、かつ下部に小円を有する「リトルくらぶ」という商品名を配し、その間にキャラクター等の他の要素を配置することによって、各構成要素がイメージとしての輪の中に一体に意識されるところに特徴がある。このように、両者の表現の個性的特徴は明らかに異なるから、被告広告は本件広告の複製に当たらない。

三  争点3(著作権の譲渡又は利用許諾の有無)について

1  被告の主張(予備的主張)

仮に、本件広告が原告を著作権者とする著作物であり、被告広告がその複製であるとしても、被告は、本件広告の著作権の譲渡又はこれを広告のために自由に利用することの許諾を受けた。

2  原告の主張

本件広告契約は、原告が被告に対し、別紙第一目録記載AないしKの広告の著作権を譲渡することを定めたものではない。また、原告は被告に対し、本件広告契約により、右各広告について、納品された版下類をそのまま使用して新聞、雑誌等の定められた広告媒体に広告することを許諾したが、それ以外に利用することを許諾していない。

四  争点4(損害額)について

1  原告の主張

原告は、本件広告契約において、別紙第一目録記載の広告の制作を被告から一二〇万円で請け負い、その代金を受領しており、これが本件広告の著作権行使につき通常受けるべき金額と考えられるので、著作権法一一四条二項により、被告広告の無断使用により受ける損害額はこれと同額になる。

2  被告の主張

本件広告契約の代金である一二〇万円には、原告の外注費や版下原稿・清刷りの制作費、一般管理費等の原価や原告自身の利益を含んでおり、右金額が著作物の利用についての使用料に相当する額であるということはできない。

第四  当裁判所の判断

一  争点1(著作物性の有無)について

1  前記第二の一の事実に証拠(甲一ないし九、甲一〇の一、二、甲一一、甲一六の一ないし四、甲一七の一ないし七、甲三一、甲三二の一、二、乙四の一ないし三、乙五、二〇、原告代表者、証人星野哲士)と弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 原告は、平成七年一一月ころ、従前より取引のあった広告代理店の明通を通じて被告から「リトルくらぶ」という名称の通信教育システム」の広告制作の依頼を受け、その制作を引き受けた。

「リトルくらぶ」は、被告が平成八年四月から新しく始める予定の小学校一、二、三年生のための通信教育システムであり、被告の開発した教材で学習することにより家庭で子供の知能の発達を促進することを目的としていた。

(二) 原告代表者は、右広告の制作に先立ち、同年一一月下旬ころから、明通、被告と何度か打合せを行い、被告の担当者から、「リトルくらぶ」の概要等についての説明を受けた。また、右打合せで「リトルくらぶ」のロゴマークやキャラクターを作成し、それらを広告の中で使用することが決められた。

原告代表者は、右打合せで決められた方針に従って、「リトルくらぶ」のロゴマーク、キャラクター及びキャッチフレーズの案をそれぞれ複数作成して被告の担当者に提示し、被告の意見を聞いた上、右広告で使用するロゴマーク(構成要素〈4〉)、キャラクター(構成要素〈2〉)及びキャッチフレーズ(構成要素〈1〉)を決定した。その後、原告代表者は、被告が決めた具体的な広告媒体ごとに、右のとおり決定されたロゴマーク(構成要素〈4〉)、キャラクター(構成要素〈2〉)及びキャッチフレーズ(構成要素〈1〉)と被告から示された「リトルくらぶ」の説明文や申込方法等の記載を配置して作成した広告案を被告の担当者に提示し、被告の了解を得た。そして、原告において、新聞広告用に三種(別紙第一目録記載AないしC)、雑誌広告用に三種(別紙第一目録記載DないしF)、ステッカー用に二種(別紙第一目録記載G、H)、パンフレット用に一種(別紙第一目録記載I)、入会申込書用に一種(別紙第一目録記載J)の合計一〇種の広告媒体ごとの広告原稿の版下を制作し、被告の社内印刷物用に作成した「リトルくらぶ」のロゴマークの清刷り一種とともに平成八年一月ころ明通を通じて被告に納品した。

(三) 本件広告は、雑誌広告のB五版用に制作されたものであり、その表現は別紙第一目録記載Dのとおりのものである。本件広告を大きく上段、中段、下段に分けると、上段には、大小の円により親子の顔を表したキャラクター(構成要素〈2〉)を大きく描き、その下に横書きで「おうちで育てる「知能」の芽。」とのキャッチフレーズ(構成要素〈1〉)が配置され、中段には、中央より左側に、上から順に、「新開発」の文字を点線で描いた一部突起のある円で囲んだもの(構成要素〈5〉)、「親と子の知能教育システム」という説明(構成要素〈3〉)、「リトルくらぶ」という文字を中央部に膨らみをもたせた横長の楕円形状の曲線で囲み、その右下に白抜きで「1・2・3年生」と記載し、中央下に小さな円を描いたロゴマーク(構成要素〈4〉)が配置され、中央より右側には被告から示された「リトルくらぶ」の説明文が記載され、下段には、被告の会社名、資料の請求先、請求方法等が記載されている。

2  右1認定の事実によると、本件広告のうち、別紙第一目録記載Dの赤枠で囲まれた部分(以下「原告著作部分」という。)は、構成要素〈1〉ないし〈5〉を組み合わせて構成することにより、被告が新たに開発した「リトルくらぶ」という通信教育システムが家庭で子供の知能の発達を促進することを目的とする商品であることを表現したものと認められ、その表現には制作者の個性が現われており、創作的な表現物として著作物性を有するものと認められる。そして、右1の事実に弁論の全趣旨を総合すると、原告が右著作部分の著作者であると認められる。しかし、本件広告のその余の部分については、原告を著作者とする著作物であると認めるべき事実についての主張立証はない。

3  被告は、構成要素〈1〉ないし〈5〉がいずれも創作的な表現とは認められないから本件広告には著作物性が認められないと主張するが、右2のとおり、本件広告の原告著作部分は右各構成要素を組み合せて構成した表現物として著作物性が認められるのであるから、各構成要素がそれぞれ創作的な表現であることを要するとの前提に立つと解される被告の右主張は採用できない。なお、被告は、構成要素〈2〉は、いわゆるスマイルマークに多少の修正を施したものにすぎないとも主張するが、右1認定の事実に証拠(乙一、二、七)を総合すると、構成要素〈2〉はいわゆるスマイルマークとは明らかに異なると認められる。

また、被告は、本件広告は応用美術であり、応用美術は客観的な美的鑑賞に耐えうるもののみが著作物として保護されるが、本件広告は特段審美的感情(美感)に呼び掛けるものではないから著作物性がないと主張する。

本件広告の原告著作部分は雑誌の広告のためという実用目的で制作されたものであるが、実用目的であるからといって、直ちに著作物性が否定されるものではない。量産品のひな形等については、応用美術として著作権法上保護されないことがあり得るが、本件広告の原告著作部分は、それらのものと同視することができるものではなく、右認定のとおり創作的な表現物である以上、著作物性を認めることができる。

二  争点2(複製かどうか)について

1  被告広告が本件広告の原告著作部分を複製したものということができるためには、被告広告が本件広告の原告著作部分に依拠して制作され、かつ、被告広告において、本件広告の原告著作部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていることが必要であると解される。

まず、被告広告が本件広告の原告著作部分に依拠して制作されたかどうかについて判断する。

証拠(乙二一、証人星野哲士)と弁論の全趣旨によると、有限会社アルスネットワークは明通を通じて被告から広告制作の依頼を受けて、平成八年四月から被告の広告を制作しており、被告広告も有限会社アルスネットワークの制作した広告であること、有限会社アルスネットワークの担当者は被告広告の制作前から本件広告の存在を知っており、原告著作部分の構成要素〈1〉ないし〈5〉を使用して被告広告を制作したこと、以上の事実が認められる。

右認定の事実によると、被告広告は本件広告の原告著作部分に依拠して制作されたものであると認められる。

2  次に、被告広告において、本件広告の原告著作部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されているかどうかについて判断する。

被告広告は、別紙第二目録記載aないしdのとおりのものであり、右aないしdの青枠で囲まれた部分(以下「本件記載部分」という。)には、いずれも「おうちで育てる「知能」の芽。」というキャッチフレーズが最上部にかつ略四分の一円周上に記載され、最下部に「リトルくらぶ」という文字を中央部に膨らみをもたせた横長の楕円形状の曲線で囲み、その左下に白抜きで「1・2・3年生」と記載し、中央下に小さな円を描いたロゴマークが記載され、その間に大小の円により人の顔を描いたキャラクターと「親と子の知能教育システム」という説明が記載されている。

被告広告と本件広告の原告著作部分とを対比すると、被告広告の本件記載部分は、原告著作部分の構成要素〈1〉ないし〈5〉と同一又は実質的に同一の構成要素を組み合せて構成されており、各構成要素の相対的な大きさや配置は異なるものの、その点を考慮しても、本件広告の原告著作部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されていると認められる。しかし、被告広告のその余の部分については、本件広告の原告著作部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものが再製されているとは認められない。

3  以上によると、被告広告の本件記載部分は本件広告の原告著作部分を複製したものであると認められる。

三  争点3(著作権の譲渡又は利用許諾の有無)について

1  著作権の譲渡又は著作物の利用許諾(以下「著作権の譲渡等」という。)は、著作権者と譲受人又は利用者との間の合意によって行われるものであるが、本件広告契約において著作権の譲渡等の明示的な合意がないことは当事者間に争いがない。そこで、本件広告契約において黙示的な著作権の譲渡等の合意があったかどうかについて判断するが、右のような合意は、著作権者の著作権を喪失させ又は制限するものであるから、黙示的な著作権の譲渡等の合意を認めるためには、著作権者の側に右のような不利益を甘受すべき事情が認められることが必要である。

この点について、被告は、(一)業務依頼伝票(乙六)から、広告媒体ごとに限定された広告の制作を原告に依頼したものではなく、一般的に「新聞、雑誌その他の制作一式」として広告制作を依頼し、原告はこれを承諾していることは明らかであること、(二)普遍的に使用しうる版下やロゴマークの清刷りを交付するということは、印刷物に普遍的に利用する許諾を与えたとみるべきであること、(三)代金一二〇万円は、著作権の譲渡又は依頼者による自由な利用を含む対価として始めて正当化される金額であること、(四)原告、被告、明通の間で別途に本件広告を改定した制作物について何ら話合いがされていないこと、(五)本件広告は被告主導で制作されたこと、(六)商業広告は、不断に見直し変更しなければならないが、そのためには広告主である制作依頼者が著作権を有するか又は自由に利用することができることが必要であるし、広告の内容から発生する危険は広告制作者ではなく広告主が引き受けるから、広告主である制作依頼者が著作権を有するか又は自由に利用することができることが公平にかなうものであること、以上のことから、本件広告契約において著作権の譲渡又は自由な利用の許諾がされたと主張する。

証拠(甲二四、三一、乙六、二〇、原告代表者、証人星野哲士)と弁論の全趣旨を総合すると、本件広告契約の制作代金は、原告が広告原稿の版下を納品した時点で一二〇万円と決められ、明通が原告に対し、内容・件名欄に「新聞、雑誌その他制作費」と、数量欄に「一式」「と、金額欄に一二〇万円と記載した業務依頼伝票を発行し、一二三万六〇〇〇円(消費税三万六〇〇〇円を含む。)を支払ったこと、本件広告契約は、口頭でなされた契約であり、契約書は作成されていないこと、被告から原告に対する広告制作の依頼から制作代金の支払までの過程で、原告、被告及び明通の間で、原告の制作する広告の著作権の譲渡及びその利用範囲に関する話合いや取決め等は一切されなかったこと、以上の事実が認められる。

右のとおり、業務依頼伝票には、内容・件名欄に「新聞、雑誌その他制作費」と、数量欄に「一式」と記載されているが、右業務依頼伝票の各欄の記載内容は概括的で、依頼した仕事を識別する以上の意味があるものとは認められないから、右主張(一)を裏付けるものではない。また、版下や清刷りを交付したことから直ちに右主張(二)のようにいうことはできず、かえって、前記一1認定のとおり、原告は別紙第一目録記載の広告の版下を広告媒体ごとに制作し、納品していることからすると、右主張(二)とは反対の事実を推認することができる。証拠(甲三一、乙二〇、証人星野哲士)によると、被告の他の同様な広告の制作代金と比べて、本件広告契約の代金一二〇万円は特に高額なものではなく、右金額は、制作実費がかなりの部分を占めていることが認められるから、被告の主張(三)は理由がない。別紙第一目録記載の広告の改定制作物について、原告、被告及び明通の間で何らの話合いがされていないこと(右主張(四))は、右認定のとおりであるが、右話合いがなかったことは著作権者が著作権の喪失等の不利益を甘受すべき事情とはいえない。別紙第一目録記載の広告の制作経過は前記一1認定のとおりであり、本件広告が被告主導で制作されたとは認められないから、右主張(五)は理由がない。さらに、商業広告は、不断に見直し変更しなければならないとしても、そのためには、広告主である制作依頼者は、見直し変更について広告制作者の許諾を得るなどすればよいのであって、直ちに著作権の譲渡等を認めるべき理由とはならないし、広告の内容から発生する危険を広告主が引き受けるのは当然のことであって、広告主である制作依頼者が著作権を有するか又は自由に利用することができることの根拠となるものではない。

以上のとおり、被告の主張(一)ないし(六)は、これを認めるに足りる証拠がないか又は著作権の譲渡等を推認させる事情とはいえないものであるから、これを採用することはできず、他に、本件広告契約において原告から被告に対して著作権の譲渡等がされた事実を認めるに足りる証拠はない。

2  被告は、商業広告については、制作依頼者にその著作権の譲渡又は自由な利用の許諾をすることがいわゆる広告業界の慣行である、仮にそうでないとしても、少なくともロゴマークやキャラクターについては、制作依頼者にその著作権の譲渡又は自由な利用の許諾をすることがいわゆる広告業界の慣行であるとも主張するが、そのような慣行があることを認めるに足りる証拠はない。

3  その他、本件広告契約において、被告が原告から別紙第一目録記載の各広告以外の形態で利用することができる旨の許諾を得ていたというべき事情は認められない。

4  したがって、本件広告契約において、被告は原告から別紙第一目録記載の各広告をそのままの形態で各広告媒体において利用することができる旨の許諾を得ていたものであるが、それ以上に、被告が原告から本件広告の原告著作部分の著作権の譲渡又はこれを広告のため自由に利用することの許諾を受けるなど、別紙第一目録記載の各広告以外の形態で利用することができる旨の許諾を得ていたとは認められない。

5  以上によると、被告が被告広告の本件記載部分を掲載することは、原告が本件広告の原告著作部分について有する複製権を侵害する行為であると認められる。また、前記二2のとおり、被告広告の本件記載部分は、原告著作部分の構成要素〈1〉ないし〈5〉の相対的な大きさ、配置を変更しているから、原告著作部分を改変したものであり、右改変は原告著作部分についての同一性保持権を侵害する。

四  争点4(損害額)について

原告は、別紙第一目録記載の一〇種類の広告媒体ごとの広告の版下とロゴマークの清刷りを制作し、その制作代金は一二〇万円であったが、前記三1認定のとおり、右金額は、制作実費がかなりの部分を占めていたことが認められる。また、証拠(甲二八、二九、三一、乙二〇、原告代表者、証人星野哲士)によると、被告の同種の広告の制作代金は、新聞広告、案内書、社内印刷物等をセットで制作する場合は一〇〇万円前後であったが、案内書だけの場合や従来の広告を若干訂正するだけで制作できるような場合は二〇万円前後とされていたことが認められる。以上の事実からすると、原告が原告著作部分の著作権の行使につき通常受けるべき金額は二〇万円と認めるのが相当である。

五  まとめ

1  以上の次第で、被告が被告広告の本件記載部分を掲載することは、本件広告の原告著作部分の複製権を侵害する行為であるかち、原告は被告に対して右行為の差止請求権を有する。被告は、現在は被告広告の掲載を止めており、「リトルくらぶ」については別の広告を使用していると主張するが、被告は本件広告の原告著作部分について著作物性を争い、原告の著作権を争っていること、証拠(甲一二の一、二、甲一四、一五、甲一八の一、二)と弁論の全趣旨によると、被告は、原告から内容証明郵便によって本件広告の無断使用は原告の著作権を侵害することになるとの警告を受けた後も被告広告の使用を継続していたことが認められることからすると、被告広告を掲載するおそれがあるものと認められる。

なお、著作権法は美術の著作物について原作品による展示権を規定している(二五条)が、被告広告の本件記載部分は本件広告の原告著作部分の複製物であるから、その展示については著作権法二五条の展示権は及ばず、したがって、原告著作部分が美術の著作物に含まれるかどうかにかかわらず、被告広告の展示は原告著作部分の著作権を侵害する行為には当たらない。

また、原告は本件広告の原告著作部分の同一性保持権の侵害に基づく謝罪広告の掲載を求めている。被告は、前記のとおり、本件広告は被告主導で制作された旨の主張をしているが、これは、著作権の譲渡等を認めるべき事実として主張しているもので、自らが本件広告の著作者であるとまで主張しているとは解されず、被告がそのような事実を公表したとも認められない。そして、その他、原告が原告著作部分の著作者であることを確保するために謝罪広告を掲載することが必要であるというべき事情は認められない。本件全証拠によるも、被告広告の本件記載部分の掲載によって原告の名誉又は声望が害されたというべき事情も認められない。したがって、謝罪広告の掲載を求める請求は理由がない。

2  よって、本訴請求は、差止請求のうち被告広告の本件記載部分の掲載の差止めを求める部分及び損害賠償請求のうち金二〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成九年四月二〇日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分については理由があるからこれを認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)

第一目録

1 「おうちで育てる「知能」の芽。」というキャッチフレーズ

2 大小の円により 親子の顔を表したキャラクター

3 「親と子の知能教育システム」という簡潔な商品説明文

4 「リトルくらぶ」という商品名を中央部に膨らみをもたせた横長の楕円形状の曲線で囲み、その右下に1、2、3年生と記載し、中央下に小さな円を配したもの

5 「新開発」の文字を点線で描かれた一部突起のある円で囲んだもの

以上の構成要素(Iについては1を除く)を広告の大きさ形状に応じて配置し、余白部に商品説明や申込方法を記載した広告(別紙ABCDEFGHIJ)

〈省略〉

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〈省略〉

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〈省略〉

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J表

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J裏

〈省略〉

第二目録

「おうちで育てる「知能」の芽。」というキャッチフレーズを約四分の一円周上に配し、その下に二つの大小の円により親子の顔を表したキャラクター、その下に「親と子の知能教育システム」という簡潔な商品説明文、その下に「リトルくらぶ」という商品を中央部に膨らみをもたせた横長の楕円形状の曲線で囲み、その左下に1、2、3年生と記載し、中央下に小さな円を配し、かつ商品名「リトルくらぶ」の右上部に「新開発」の文字を点線で描かれた一部突起のある円で囲んだものを配し、余白部に商品説明や申込方法を記載した広告(別紙abcd、但し、acについては赤枠で囲われた部分)

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

謝罪広告

当社は、当社の通信教育システム「リトルくらぶ」の新聞、雑誌、ポスター及びステッカーによる広告において、貴社の制作した「リトルくらぶ」の広告を無断で改変し、貴社の著作権を侵害したことは、誠に申し訳けなく、ここに謹んで陳謝の意を表すると共に、今後は貴社の著作権を侵害する行為をしないことを固く誓約します。

平成年月日

東京都中野区中野三丁目四九番一号

株式会社四谷大塚

右代表者代表取締役 鈴木靖夫

株式会社スクリプト 殿

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